第5回 シナリオを書いてみたい! と思ったアナタへ 【回想シーン イメトレ】

自分なら、どんな回想シーンを書くか、イメージしてみましょう。

※状況設定
両親と東京で暮らす山本夏美(18)は、祖母の長瀬タキ(80)が緊急入院した報を聞いて、母、裕子(48)とともに愛知県、知多半島で一人暮らす祖母の元へ駆けつける。

病院で付き添えるのは母のみ。
夏美は一人、タキの家で留守番をすることに。

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〇長瀬家・居間(夕)

〇(回想)     

〇元の長瀬家・居間(夕)

例えば、ここは海辺の街ですので、ふと縁側に腰を下ろしたら、海に沈む夕陽が綺麗で、そういえば子どもの頃、夏休みになるとタキのうちに泊まりに来て、この縁側に二人並んで夕陽を見たなぁ、とか。

さらに、この回想シーンを効果的にするなら、この縁側で、二人は並んでスイカを食べているとします。子どもの夏美が細かなタネの一つ一つを丁寧に取り除きながら、食べているのを見て、タキは「見ておいで」と言ってババッとなん口も頬張ったかと思うと、口から機関銃のようにタネを飛ばして見せる。

呆気にとられるが、やがて吹き出す夏美。
そんな夏美にタキは「タネばっかに気を取られとっては、ほんとのスイカの味はわからんよ」と、細かいことに囚われ過ぎる神経質な夏美を思っての言葉がけをするとする。

これを思い出す時の現在の夏美は18歳で、例えば部活の後輩の指導で、やっぱり細かなことに囚われ悩んでいたとしたら……この回想は夏美に気づきを与え、回想から戻ったあとの夏美は少し違う表情を見せているでしょう。

このように、回想をはさんだ前と後ではその人物に何らかの変化が起きているはずなのです。

最後に、回想に入る前の助走のシーンとして、前回で取り上げた映画「ニュー・シネマ・パラダイス」にもう一度触れておきたいと思います。

今は都会で名の知れた映画監督となっている主人公のもとに、故郷の母から報せが入る。30年帰ることのなかった故郷の、今の自分を形作ってくれた恩人の訃報。

それを知った主人公は、横で眠る女性に背を向け、つまり自分一人の世界に入って、その死を噛みしめる。目が語る戸惑い、混乱、反芻……。轟く雷鳴とともに。
そして、少年トト(主人公の愛称)の物語(=大回想)が始まっていくのです。

※映画「ニュー・シネマ・パラダイス」には劇場公開版(124分)と完全版(173分)があり、ここで紹介したのは劇場公開版となります。

(白石栄里子)