シナリオの3大要素の一つ、《ト書き》について、その②です。
(※ト書きの書式については第2回をお読みください。)
その①で【ト書きは映像として表現できなければならない】と書きましたが、
今回は、その特徴を利用して、《セリフに頼らず映像で表現する》そのためのト書きについて書いてみたいと思います。
そもそもト書きには、情景描写、状況描写、人物の動きなどを書くわけですが、
人物の喜怒哀楽や、様々な心情をセリフでストレートに伝えるのではなく、
人物の動きで表現したらどうなるか?
シナリオ初心者の方にいくつかアイデアを出してもらいました。
★苛立ち
・シャープペンをカチカチと鳴らす。
・眉間に皴を寄せる
・貧乏ゆすりをする
・部屋を歩き回る
★緊張
・掌に「人」と書いて飲みこむ(やや古典的?)
・しゃっくりが出る
・深呼吸を繰り返す
・ペットボトルの水を何度も飲む
苛立ちも緊張も、セリフで「あ~イライラする」「ヤパッ、緊張する~」と言ってしまえばそれまでですが、ドラマも映画も映像という武器があるのですから、映像を通して伝えることを意識したいものです。
ただ、上の苛立ちや緊張のアイデアはやや想定内のものでしたので、もう少し設定を絞って考えてもらうことにしました。
ある緊張の場面 |
人物:宮島光彦(50)
状況:初めてのピアノ発表会
彼女いない歴五十年の光彦。五十歳を機に始めたピアノの発表会に、会社で密かに思いを寄せている部下、野村麻実(27)が来ていることを知る。そして、光彦の出番がやって来て…… そして、光彦の出番がやって来て…… |
この場面での光彦の緊張ぶりを、自由に表現してもらいました。
【出てきた表現】
・光彦、着席すると同時に譜面を落とす。
・舞台袖から光彦、右手右足、左手左足を揃え、ナンバ歩きで出てくる。
・光彦、着席するとイスの高さを調整しはじめるも、いつまで経っても終わらない。ざわつく観客たち。
いずれもステージ上の光彦の緊張が伝わってきます。
ここから例えば、一つ目の案で、光彦が落とした譜面がワックスの効いた床をスーッと滑ってステージ下に落ち、それをたまたま麻実が拾い、ステージ上の光彦に渡したら……光彦は落ち着くのか、いやいや、より緊張するのか、そんなことを考えるのもシナリオ創作の楽しさですね。
※ちなみに、何かを伝えるのにセリフに頼らず、映像を意識して表現することを映像用語で「シャレード」と言います。
(白石栄里子)