こんな毒 vol.9

 『「桐島です」』(2025年/脚本:梶原阿貴・高橋伴明/監督:高橋伴明)を観た。集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈の変更を閣議決定したテレビ放送を見ていた桐島が、画面の安倍総理に、飲んでいたコーヒーのマグカップを投げつける。長き逃亡生活の収まりきれない怒りの爆発に、何故か頷いてしまった。
 この映画のトップに出てくる三菱重工ビル爆破事件の一週間前、銀座で1本映画を観て、爆破事件となる通りを歩いて、東京駅に向かった記憶を事件と共に深く留めている。
 丁度その時、東京で二泊三日の映画やシナリオの夏期講座に参加して、そこで上映されたドキュメンタリー映画、『鬼ッ子 闘う青年労働者の記録』(1969年/NDU日本ドキュメンタリストユニオン)、『三里塚 辺田部落』(1973年/小川プロ/監督:小川伸介)、『赤軍派 PFLP‐世界戦争宣言』(1971年/若松プロ/監督:足立正生・若松孝二)を観たことが、20代の僕に影響した。中心(東京)から遠く離れて生活する僕には、左翼・右翼の主張よりも、反権力・反権威への思いを強くした。映画『独立少年合唱団』(2000年/脚本:青木研次/監督:緒方 明)のセリフ「東京ではね、戦争が起きてるんだ…」が耳に残って、事ある毎に這い出してくる。ある意味70年前後数年は、東京は戦争状態だった。
 高度経済成長から経済大国、バブルの狂乱そして、失われた三十年の時の流れを逃亡という抵抗で戦っていた桐島聡は、爆弾テロでは決して人を傷つけない事を信念とした生き様が、『「桐島です」』という映画である。
 映画のラストで、リビアのアジトで、スマホに着信する桐島死亡のメッセージに、「桐島君、おつかれさま…」と応え、銃をカメラに向ける日本女性・AYA(高橋惠子)が、『赤軍派 PFLP‐世界戦争宣言』に映されていた重信房子さんを連想させる。
 2000年11月8日に重信房子さんが大阪で逮捕された時、1974年に公安の眼を気にして観た『赤軍派 PFLP‐世界戦争宣言』で彼女の映っているシーンを、検閲されずテレビで放送されたのを思い出した。逃亡中の桐島聡も観たんだろうな。そして、時代が変わった寂寥感に捉われたかもしれない。
 永田洋子著「十六の墓標(上・下)」連合赤軍リンチ事件の顛末が綴られている。当時の新左翼の思想は理解できないが、捲し立てる立派な主義・主張に反して、行動が安易(アクセサリーを身に付けている女性革命戦士、男女の仲を疑われる革命戦士など)で、総括出来ていないとリンチで責め上げ殺してしまう。悲しくやり切れない想いで読んだ記憶が蘇った。人が権力を手にした時、制御の効かない本性を振り回す怖さと、次はわが身と止める事も出来ない責任逃れの同志の姿に、いつの世も自己保身にはしる姿は、悲しくわが身に刻む。

 余談だが、1970年、日本シナリオ作家協会・シナリオ研究所の通信教育科で一年間シナリオの「いろは」を学んだ。後で分かった事だが、当時のシナリオ研究所は、経理など不祥事?で、混乱した状態であった為か、正規の通信教育修了者に数えられていない、という経験もした。

(加藤満男)

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