【ラジオドラマの書き方 第5回】 いい台詞とは?

ラジオドラマの書き方の第12回の質問者から、3度目の質問メールが届きました。

Q1「良いセリフ、上手いセリフとはどういうものでしょうか」

Q2「良いセリフを書くにはどうしたら良いのでしょうか」

Q3「映像ドラマと音声ドラマでセリフ作りの勘所は同じでしょうか、異なるのでしょうか」

まず、Q1の「いい台詞」について。それは必ず、話の流れの中にあると思います。例えば、日常生活で、ある人が「こんな家庭の事情があるんだよね」と言ったとき、それまでのその人の言動が、「あぁ」と納得できたことはありませんか? 何かが腑に落ちたとき、それが「いい台詞」になるのだと私は思います。

そして私は「上手い台詞」というものは、ないと思っています。「上手い台詞だ」と思わせた時点で、脚本を読む人、ドラマを観る人が、その世界に入り込めていないのではないかと考えるからです。

次に、Q2の「いい台詞を書くにはどうしたらいいか」について。キャラ造型をしっかり作る、としか、私には言えません。そして、「この人なら、このとき、何を言うのだろう」と、考えて考えて考え抜きます。だって、他人のことですから。私と他人が同一になったとき、はじめて、「いい台詞」が発せられるのだと思います。

さて。これ、とてもいい質問なので、田島秀樹さん、西村有加さんにも聞いてみました。

まずは、「ちょっとマニアック」な、田島秀樹さんの答えから。

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大事なこと、「いいセリフ」ですが(設定や説明に必要なものは置いておいたとして)、

不自然であろうが、無理があろうが、ベタであろうが、あざとさがあろうが、

耳に、頭に、心に「残るもの」だと思います。欲が深いので。

もちろん、その台詞を口にすることが許される状況を生み出すために、

脚本家は自己の存在を賭ける覚悟で挑まなければなりませんが。

恐らくどんな台詞も「現実」には敵わないと思います。しかしそうして

生み出された言葉は、消えずに留まることができるのではないかと。

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次に、第3・4回のラジオドラマの書き方を担当してくれた、西村有加さんの答え。

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「いい台詞」、幾つもの捉え方があるように思います。

例えば説明を説明と感じさせない、技巧的に優れたものも、いい台詞と言えると思いますが、私は一旦、「心に残る台詞」という意味で考えてみました。

「心に残る台詞」と言われて、私が一番に思い浮かぶのは、脚本家の笠原和夫さんの書かれた、『県警対組織暴力』という、すごいタイトルのシナリオの中の台詞です。ご存知の方もいるかもしれませんが、その昔、東映のやくざ映画が全盛の頃の、深作欣二監督の作品です。

時は昭和三十年代の終わり。菅原文太演じる所轄の部長刑事の久能は、松方弘樹演じるヤクザの組長の広谷に、立場は正反対ながらも心惹かれるものを感じていました。

戦後の貧しさの中で、生きていくために警察に入った久能にとって、男気を感じさせる広谷の生き方は眩しく、久能はいつしか広谷に、自分の理想を重ねるようになっていったのでした。

そんな二人の関係は、もともとは警察とヤクザ組織との癒着から生まれたものでした。

正義と悪が手を結び、金を掴もうとしていた時代だったのです。

そんな癒着を正そうと県警からやってきた若きエリート刑事が、梅宮辰夫演じる海田です。時代はいつしか、変化の時を迎えていたのです。しかし、海田が癒着を無くそうと動いたことで、久能と広谷の間には、溝ができ始めました。そして決定的な事件が起こり、ついに堪忍袋の緒が切れた久能は、警察署で夜食のカレーライスを食べていた海田のカレーの皿を激しく手で払い、言います。

久能「海田さん、、、あんた、年はなんぼじゃ!?」
海田「二十八だが、、、」
久能「じゃったら、日本が戦争に負けた時ァ十じゃったのう。あの頃はの、上は天皇陛下から下は赤ん坊まで、みんな横流しのヤミ米喰らって生きとったんで! あんたもそのヤミ米で育ったんじゃろうが。綺麗ヅラして法の番人じゃなんじゃ言うんじゃったらの、十八年前わりゃァが冒した罪ハッキリ清算してから、うまい飯喰ってみィや!」
『笠原和夫 人とシナリオ』(シナリオ作家協会 「笠原和夫 人とシナリオ」出版委員会編/2003年11月7日初版発行)より引用

私はこの台詞を聞いた時、鳥肌が立つような気持ちだったのを覚えています。

深作欣二の演出や、菅原文太の役者としての力量もあると思うのですが、「すごい台詞だ、、、」と圧倒されました。

「心に残る台詞」というのは、ちゃんとそのキャラクターの言葉として発せられているか、そのキャラクターにしか言えない台詞か、それが大事なのではと、以前から漠然とは思っていました。

そして、「いい台詞」を考えるうちに、もう一つ、思い至ったことがあります。

それは、「どれだけそのキャラクターのことを知っているか」ということです。

今回、この台詞を写し出すために、笠原和夫さんのシナリオ集を見ましたが、巻末の笠原氏の生い立ちに触れたページには、戦後を苦労して生きられたことが書かれていました。久能は、笠原氏だったのかもしれません。少なくとも、笠原氏は久能のことを、とてもよく知っていたのです。そのことが「心に残る台詞」を生んだんだなあと、納得がいきました。

当たり前といえば当たり前の話なのかも知れませんが、自分の書くキャラクターを知れば知るほど、いい台詞が生まれる、そのことを改めて思い知りました。

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以上が、西村有加さんからの回答です。

ちなみに、私を含めた三者が、他の人の回答は知らずに答えています。

Q3の、映像ドラマと音声ドラマでセリフ作りの勘所については、次の「ラジオドラマの書き方 第6回」で。

*「いい」と「良い」、「台詞」と「セリフ」など、表記の揺れは、各人の好みを尊重しています。

**『県警対組織暴力』については、電子書籍ほかでも出版されています。

                                                   (伊佐治弥生)