「角岡さんの思い出」 written by 加藤満男

50年位前、1973年か74年、NHK名古屋放送局が中部本部という名前であった頃、ラジオドラマ脚本募集がありました。

その頃シナリオ作家協会のコンクールに応募して落選を繰り返していました。ラジオドラマの書き方も分からないまま応募して、落選でしたが、ラジオドラマとして放送したいと連絡があり、鶉野昭彦潤色、角岡正美演出で『ほんとうにさようなら』が1975年に放送されました。人の縁って不思議ですね、ラジオドラマに応募するにあたって、初めて聴いたラジオドラマが『女優志願』、鶉野昭彦作、角岡正美演出、文化庁芸術祭優秀作品でした。

近頃思うのですが、〝きっかけ〟や〝縁〟を掴んで世に出て、しぶとく生き抜く人たちが名を成すのではないかと。

縁があって、角岡さんの演出でオリジナルを4本も書かせていただきながら、能力不足で一人前になれませんでした。

僕の場合、角岡さんはオリジナルを尊重して、あまり書き直しの指示はありませんでした。書き直させるよりも初稿の感性を生かして、角岡流に演出するのがいいと思われたのでしょう。そのかわり、「君の特長はこういうところだ」「こんなの書いてちゃ駄目だよ」「僕が君を使っているから、他のディレクターが遠慮しているかも」等、作品以外の話が心に残っています。

初めて逢った時、風紀の厳しいNHKで長髪で現れて、NHKは長髪OKなんだと思いました。

東京へ転勤される時も、こんなライターがいると引き継いでいかれるなど、地元のライターを見い出し、育てようという方でした。

作品の依頼があって2・3回会うぐらいでしたが、〝ちゃん〟呼びされる頃がお逢いした最後になったと思います。

結局、僕の書く物が角岡さんの感性に触れなくなったんでしょう。

伊佐治さんから、「私たちがお逢いする前の角岡さんのことを書いてください」と頼まれて、50年前の思い出、久しぶりに長い文章を書きました。

今も週1回、映画を観ています。もう50年以上4,000本は観たことになりますか。

なぜ映画を観るか? シナリオ作家協会の通信講座でシナリオ作家になるには、戯曲、名作シナリオを読んで映画を観ることですとの言葉が脅迫観念になっているから・・・。

近頃、少年の時のように楽しく映画を観たいと切望しています。

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