こんな毒 vol.5

 2002年ワールドカップ日韓共同開催で映画『シュリ』やテレビドラマ『冬のソナタ』など韓流ブームに沸きかえった。その3年前に静かに公開された韓国映画があった。

 『八月のクリスマス』(1999年/脚本:オ・スンウク、シン・ドンファン、ホ・ジノ/監督:ホ・ジノ)。父親との生活と写真館を営む不治の病の青年の日常描写が淡々と描かれる。夏のある日、交通取締り員の若い女性が写真の現像に写真館にやってくる。彼女は青年を“おじさん”と呼びながらも心を寄せてゆく。青年も彼女の若い生命力に心を寄せるが、病が進行して入院してしまう。会えない彼女は、閉まったままの写真館に秘めた想いの手紙を戸の隙間から投函する。一時退院した青年は手紙を読み、彼女の想いに答えられず、喫茶店の窓越しから交通取締りの仕事をする彼女を指先で撫でる(このシーンは涙がこぼれて仕方がない)。青年は返事の手紙を認め、彼女の手紙と共に箱に仕舞い、遺影の写真を撮る。青年は亡くなる。事情を知らない彼女は、雪が積もった写真館にやって来て、店頭に展示してある自分の写真を見て立ち去って行く。あの夏にやってきた彼女は、青年が迎えることが叶わなかったクリスマス。人生を共に過ごすことができない男と女の話は切ない。

 『草原の輝き』(1961年/脚本:ウィリアム・インジ/監督:エリア・カザン)。1929年大恐慌前後の高校生の性への葛藤に悩むバッド(ウォーレン・ビーティ)と性への罪悪視する母親に悩むディーン(ナタリー・ウッド)。バッドは父親の事業の破産で荒れた生活を送り、ディーンは性への罪悪視から精神を病む。その後二人は立ち直りそれぞれの道に進むが、ディーンは想いの区切りを付けるためバッドに会う、二人は黙したまま。心の片隅に何かを残した表情で去っていくナタリー・ウッドがいい。久しぶりに逢ったバッドとディーンが互いの想いを話さないのがいい、話さなくてもわかり合える切ない男と女の話。

 『陽のあたる場所』(1951年/脚色:マイケル・ウィルソン、ハリー・ブラウン/監督:ジョージ・スティーヴンス)。「グッバイ・ジョージ」と別れを告げる甘ったるいエリザベス・テーラーの声とクローズ・アップのラブ・シーンが印象に残る。
 慈善活動で生計を立てていた家庭で育った青年ジョージ(どことなく陰りがあるモンゴメリー・クリフト)は、上流家庭で何不自由なく育ち美貌を輝かせる女性アンジェラ(当時19歳で輝くほど美しいエリザベス・テーラー)と出会い恋におちるが、出会う前の暗い荷物(妊娠した女性から結婚を迫られる)を捨てるために罪を犯すジョージに死刑判決が下される。刑が執行される日、アンジェラが面会に訪れるが何も話せず帰る時に「グッバイ・ジョージ」と別れを告げる、エリザベス・テーラーの美しさと甘ったるい声が効いている。刑場に向かうジョージの脳裏にあの甘美なラヴ・シーンが浮かぶ、儚い夢(陽のあたる場所)を望んだ男と陽のあたる場所の女、出会うことがない男女が逢ってしまった話も切ない。

 日本映画にも『野菊の如き君なりき』(1955年/脚色・監督:木下恵介)という男と女の切ない話がある。

(加藤満男)

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