【ラジオドラマの書き方 第10回】 場面の知らせ方

視覚情報がないラジオドラマでは、表現することのほかに情報を(できればさりげなく)知らせることが必要です。ファーストシーンを例にとって、登場人物たちがどこにいるのか知らせる方法を挙げてみます。3つのパターンが考えられます。

(1)モノローグで知らせる。モノローグは原則として主人公のみが使います。主人公の置かれている状況だけでなく、他の登場人物のことまで知らせることができるので、書きやすい方法です。ただ、100字を越えて長くなるにつれ、聴く人の興味は薄れていきがちなので、長くなりすぎないようにしてください。

(2)効果音と周囲の声で場面を知らせる
学校を例にとると、
チャイム→教師の「じゃ、今日はここまで」というオフの声→教室にいて、休み時間になったことを知らせます。
オフでチャイム→オフで野球部の練習する音→校庭にいることを知らせます。
ラジオドラマでオフというのは、台詞を話す人から(物理的、心理的)距離が遠いことを示します
効果音だけでは伝わらないことの方が多いので、気をつけてください。
例えばドリルのような機械音は、工場内のそれなのか工事現場のそれなのか、判別がつきにくい。枯れ葉の散る音は、枯れ葉なのか紙なのか雑音なのか、わかりません。機械音は、オフの会話で仕事に関する話があれば工場を想像できますし、「歩行者来ます」とあれば工事現場だとわかります。

(3)何も知らせない
単に会話だけで始めます。会話の内容が興味深いものであれば、「どういうことだろう?」「なにが始まるのだろう?」と聴く人をひきつけることができます。回想のシーンとして使うこともできますし、「実は宇宙空間でした」とすることもできます。うまくいけば印象的なシーンになりますし、会話の内容がありきたりなものであれば、そこで聴く人の興味は削がれてしまいます。

【ラジオドラマの書き方 第3回】で効果音について西村有加さんが書いてくれていますので、併せてお読みください。

少し収録時の話を。モノローグは、マイクに触れそうなほどに近づいて囁き声で話す手法(ウィスパー)で録られることが多い。普通に話す声と違った声になり、耳元で囁かれているような親近感も感じます。モノローグを書く場合は、そんな声を想像して書くといいですね。また、会話は演者が相対して話すのではなく、並んで立ってそれぞれのマイクに向かって話します。この2人が歩いていてすれ違うというシーンなら、マイクの音量で調整することもありますし、演者が実際に「3歩徐々に下がって」話すこともあります。「オフ」の「ガヤ」、(物理的、心理的に)離れたところで複数の誰か(「ガヤ」)が話している場面は、複数の人が互いに少し距離をとって1本のマイクに向かって話すことが多い。

ラジオドラマでは、いろいろな工夫で声が録音されています。視覚情報はありませんが、音が立体的に作られているのが作るうえでも聴くうえでも、面白みの一つと言えます。

(伊佐治弥生)