【ラジオドラマの書き方 第9回】 キャラクターの造型

ラジオドラマは、映像ドラマよりもキャラクター造型が重要になります。なぜなら、映像ドラマでは役者が文字通り体現する「年齢」、「美醜」、「佇まい」などを、ラジオドラマでは表現しにくいので、「キャラの外見」ではなく「キャラの内面」を充実させる必要があるからです。そうでないと、脇役はストーリーの中で割り振られた役を演じるだけになり、ひいてはご都合主義的なお話になってしまいます。

 シナリオを書き始めるまでの準備作業は、それぞれのやり方があると思いますが、箱書きを作るのが一般的だと思います。では、箱書きを作る前の準備作業は? 一般論では語れないので、私、伊佐治の場合を例にとって書いてみます。
 まず、ぼんやりとストーリーを考えます。同時に主役はどんなキャラが適切か、周囲にはどんな人々がいるかを考えます。
 ぼんやり考えるのに倦んだら今度は登場人物のプロフィールを考えます。ホームドラマの場合は、年表を作ります。両親はそれぞれ何年生まれで、何歳差なのか。子どもの生年、小学校入学、中学入学等々。祖父母がいれば、生年と人生のトピックを書き込むとともに、世の中の動きの重要トピックも書き込んでいきます。年表の横軸は1年刻みで、縦軸は登場人物の名前と世の中の動きが並びます。
 そうして出来上がった年表を眺めながら、「この家族はバブル崩壊のときにはどんなだったのだろう」「コロナ禍はどうやって過ごしたのだろう」などと考えます。

 このとき、留意するのが、登場人物それぞれが属する世代です。おじいさんおばあさんといっても、80代以上であれば戦前戦中の生まれです。もしかしたら、戦争で親兄弟をなくしているかもしれません。戦中戦後、ひもじい思いも経験していて、食べ物を粗末にすることができません。65才以上70代以下であれば、団塊の世代です。子どもの人数が多く、競争が激しかった世代、女性が強くなった世代でもあります。この二つの世代の価値観は、まったくと言っていいほど異なります。さらに下れば、バブル世代があります。かくいう私もバブル世代なのですが、「人生なんとかなる」と思っている節がいまだにあります。そのあとに、就職氷河期を経験したロスジェネ世代、ゆとり教育を受けたゆとり世代がきます。この辺りまで下がると、お父さんお母さん役になるでしょうか。
 世代論そのものは賛否両論あるでしょうが、世代論で切り取ることは、ひとつの目安になります。その世代に属していながら、その世代特有の属性を持たない人もいます。それはそれでいい、そういうキャラクターなのですから。

 重要なのは、様々な角度から登場人物を肉付けしていくことです。その過程で、登場人物たちの声が聞こえてきます。

 年表ができ、登場人物が出そろい、彼らの声がうるさく聞こえるようになったら、ようやく箱書きの作業。登場人物たちとストーリーをすり合わせたり、ふくらませたりします。

 ずいぶんと面倒に思われるかもしれませんが、私は登場人物それぞれが自分の声を持ち、自分の足で立っていることが、シナリオに厚みや奥行きをもたらしてくれると信じています。また、実際にやってみると、なかなか楽しい作業です。
 登場人物を造型するのに、身近な人をモデルにしたり、イメージキャスティングしたりする方法もあります。しかし、身近なモデルは、いつかネタが尽きます。イメージキャスティングは、ラジオドラマの場合、独りよがりに陥りやすい危険性もあります。
 ストーリーや登場人物に煮詰まったら、手を動かし、頭の別の部分を動かす年表作り、ぜひ、試してみてください。

(伊佐治弥生)