【第3話】バナナの(木)? バショウの(木)?

 テレビのチャンネルをアチコチと変えていて、「うん?」その出来事は自分の事ではないのに、私の書いた脚本でもないのに、顔から火が出ると表現する以上の恥ずかしさと姑根性で、思わず音量をあげて見てしまった。

 それは情報番組で、江戸時代の絵師「伊藤若冲いとうじゃくちゅう」の作品を鑑賞してコメントするものでした。
 伊藤若冲は当時、雄鶏おんどりを始め鶴や虎などから野菜に至るまでの動植物を描く知名度の高い絵師です。その番組のコメンテーターは、襖絵や軸に描かれたバショウの木を見て「バナナの木が生茂るように描かれている!」としゃあ、しゃあと言ってのけたのです。その絵には、大きなバショウの木が描かれていました。 

 確かにバショウの木とバナナの木の葉や姿は似ていますが、バショウの木の実は小さく毒々しい色をしていて、お馴染みのバナナのような実ではありません。黒い種子がグチャグチャと入っていて、長い花茎の先にはラグビーのボールのような黄色の花を付けます。大きな違いは食べるることができません。

 時代物などのテレビドラマや映画、芝居では、時代考証は欠かせない存在で、その時代の衣装、言語、建物、食事、風俗・生活習慣などの指導が入り重要視されています。しかし、それぞれの物語には植木や草花野菜などの必要なシーンは至る所にあるはずですが、飛鳥・奈良・平安・江戸時代頃までの樹木草花は殆んど松、竹、梅、桜、柳、椿、紅葉、竹、藤、芒、菊などで済まされていたり、その時代よりもかなり後に他国から渡来した樹木草花が使われたりするのは凄く残念で「えっ!ちょっと待った!その時代は〇〇は日本にはまだ無かったよ~!」とテレビ画面の前で悔しがることしきりです。
 その時代に存在するか否かの植物(樹木、草花、野菜、果物)歴史年表が理解されていないのは残念なことです。

 因みに、古くから日本に自生していた野菜は僅か20種類程だといいます。サンショウ、ワサビ、ミョウガ、ジネンジョ、セリ、フキ、クコ、ヒシ、ジュンサイ、ツルナ、ヤマゴボウなど(薬味的なものや漢方薬として重宝されていたもの)ですが、その後の殆どの野菜は、他国から渡来しています。あたかも日本独自のふりをし続けてるのです。
 縄文時代に渡来した最も古い野菜は蓮根れんこんです。これははっきりとしていて、仏教伝来と同時です。仏像は必ずはすの花の上に鎮座していますが、この蓮の花の根が蓮根です。
 また、おでんには欠かせない一品のサトイモは、弥生時代に存在し、稲作以前の主食だったと伝えられています。   

 渡 辺 雅 子

 バナナもバショウも実は樹木ではなく大型多年草の分類になります。