「ラジオドラマの書き方 第5回」で積み残したQ3「映像ドラマと音声ドラマでセリフ作りの勘所は同じでしょうか、異なるのでしょうか」について。
私、伊佐治は、学生演劇から、ほぼそのままラジオドラマを書くようになった人間なので、正直、違いがわからない。そこで、『シナリオを書いてみたい! と思ったアナタへ』担当の白石栄里子さんにインタビューしていただく形で、お答えしてみることとしました。
〇 台詞の役割
―この企画に向けて、伊佐治さんのラジオドラマ脚本を読ませていただきました。色々とお聞きしたいことはあるのですが、今回は“セリフ”に絞って、映像の書き方と違いがあるのか、ないのか、順に伺いたいと思います。よろしくお願いします。
「こちらこそです」
―映像の台詞の役割として、「情報、状況説明」「感情の表現」「話者の性格や特徴を表す」がありますが、それはラジオドラマでも同じですか?
「まったく同じだと思います。ただ、シーン終わりの台詞をきちんと置く、ということは若い時に言われて、気をつけています。西村さんが第4回で、効果音や音楽が柱の役割を果たすと書かれていますが、スムーズな場面転換のためにも、シーン終わりの台詞を印象的にすることは大切だと考えます」
―印象的に、というのは具体的にどんなことを指すのか、もう少し伺えますか?
「卑近な例では『え? そうだったの!』『なんてことだ』といった、次に興味を持ってもらえるような台詞。あるいはまた、決め台詞と言われそうなものを持ってきます。とともに、シーン終わりはできるだけ、主人公の台詞にします。お話をつなげてゆくのは、主人公の心の動きなので、追いやすくなる」
―ラジオドラマのセリフの中に人物の動きを想起させるものがあります。例えば、「押すなよ」なんて言えば、この人物が押されていることがわかる。これが映像であればト書きに押すという動きを書いて、セリフでは「ちょ、なんだよ」ぐらいに言っておけばいい。動きを想起させるセリフは意識して入れますか?
「特に意識はしません。ただ、『入れないと状況がわかりにくいだろうな』『入れないと、次の台詞が出にくいだろうな』と思えば、工夫してなんとか入れます」
〇 モノローグの使い方
ー映像ドラマではモノローグをできるだけ使わないように教わりました。といっても最近は、ながら視聴の影響なのか、モノローグを多用する映像ドラマも見かけます。ラジオドラマでは、そんな流れ、つまりモノローグが増えたという傾向はありますか?
「わかりやすくするためにモノローグが使われることは少なくないのですが、それは制作者の好みの問題なので…。ただ、私はモノローグについて、こう考えます。小説を例にとるとわかりやすいかと思うのですが、また、事実、ラジオドラマは小説に似ていると言われることもあるのですが、小説に一人称と三人称のそれぞれの視点、書き方があるように、ラジオドラマでも、モノローグを使うものは一人称の小説に似ていて、使わないものは三人称の小説ですね」
―伊佐治さんはモノローグを使う派? 使わない派?
「作品によりますが、モノローグで始めることは多いですね。映像でもそうでしょうが、最初の掴みが大切。ラジオは『そこがどこなのか、日本なのか、近未来なのか、過去なのか』がすぐにはわからない。モノローグで始めると世界観が提示しやすい。ただ、モノローグを使う場合でも、『悲しい』とか『楽しい』といった感情表現の言葉は使わず、情景描写をします。小説の手法ですね。今、作品によると言いましたが、コメディはそういえば、会話で始めることが多いですね。関係性を最初に見せたいのだと思います」
〇 主人公の本音にたどり着くまで
―映像シナリオでは、人は簡単に本音を言わないことを念頭に置いてセリフを書くようにと教わります。つまりウソをつく。簡単な例では友だちに「A君のこと、好きなんでしょ?」と訊かれて「やめてよ、ないない」なんて答えてしまう場合。これは表情を映像で捉えることができるので、観ている側は容易に本音が想像できる。ラジオではどうでしょう?
「ラジオでは『嘘』そのものが大きな仕掛けになります。なので、小さな嘘はつきませんね。小さな嘘をつくとしたら、その前に事実を提示しておき、嘘が嘘だとわかるようにします。その点は、たしかに映像ドラマとは違います。
―では、どうやって本音を言わせるのかということについて、伊佐治さんの作品を読んで、その手腕を感じた部分がありました。母と娘がコミカルな短い会話を十往復させるの中で、前半は単調な往復をさせておいて、後半の五往復の中でググッと真に迫っていく。十往復で二回転調を起こして主人公の心情を吐露させる。つまり、準備運動を経ての跳躍。
「それは、単に私が『家族の話を聞かない団らん家庭』で育ったから(笑)。他人の話を聞かず、自分の言いたいことだけ言う人が一人いれば、あるいは幼い子供がいれば、転調は難しくありません。
「重要な台詞の前に、コミカルな会話、気楽なシーンを置くと、重要な台詞が聴いている人の心に落ちやすい。これは、私が学生時代に先輩から教わったことです」
〇 脳内にシーンを映し出しながら書くかどうか
―ラジオドラマの場合も脚本を書く時にシーンは思い浮かんでいますか?
「もちろんです。そうじゃないと書けません。映像シナリオと同じで、頭に浮かんでいるシーンを文字に移すだけ。箸の上げ下げまで書く必要はありません。映像の脚本でもそうでしょう? 何をしているかと大体の雰囲気が伝わればいい、想起させるヒントを書いておけばいい。ただ、最近も、あるシーンを『テレビだったらいいシーンなんだけどね』とあっさり切られたことがありました。具体的には、発熱して寝ている幼い妹に、姉が二言三言話しかけるシーン。表情がつかないと生きてこない台詞というものはあります。
「ついでに言うと、ホームドラマでは、家の間取りまで書きます。これは、私や演出家のためばかりでなく、スタッフさんたちのため。階段はどの位置にあるのか。台所とリビングの距離はどれくらいあるのか。そういうことによって、技術スタッフはマイクの位置を変えたり、キャラが移動する際の、例えばオンからオフに移る音量を調整したりします。そういうこまやかな苦労で、ラジオドラマは出来上がっているんです」
―台詞についても同じですね。すぐにそれとわからないようなところを積み上げて積み上げて作ってゆく。
「脚本書きの苦労のしどころであり、快感ですね」
以上、ほんのエッセンスですが、なにかヒントになることがあれば幸いです。
白石さん、いろいろと質問を考えてくださって、引き出してくれて、ありがとう。ほんとに、何も考えずに書いてきて、キャリア30年越え…。へぇ、そうだったのか、と自分でも気づくことが多かった。合ってるといいけど…。
今回の掲載分は、初心者の方向けの内容に限らせていただきましたが、その他にももちろん、いろいろおしゃべりしました。映像ドラマについて、「それを台詞にするのか、ト書きにするのか、悩みどころ」という白石さんの話が面白かった。また、「キャラ造型」の話だけは、大事なことなので、近いうちに取り上げたいと思っています。(伊佐治弥生)
伊佐治さんのシナリオを読んで高度な職人技だなと感じる部分が多々ありました。その極意を初心者の方にもわかりやすくお聞きすることができたらと、インタビューに臨みましたが、まだまだお聞きしたいことがたくさん。それはまたの機会に。
(聞き手:白石栄里子)